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NHL最強のGM、デービッド・ポイルの奇跡の業績を振り返る

プロ野球ではそうでもないが、アメリカのプロスポーツだと、GMという職業は、チームの運命を大きく左右する仕事だ。

 

今年に入って散々取り上げているタイタンズを例にとれば、ラストン・ウェブスター政権時は、引っ張ってきたウィゼンハントHCは散々、ドラフトで指名した選手はNFLのレベルに追いつけず、FA補強は外れまくり…と最悪だった。

逆に、タイタンズが立て直したのは (今後また取り上げるつもりだが) ジョン・ロビンソンGMによるところが大きいのは間違いないだろう。

 

ブルージェイズも、JP・リッチアーディGMが大型契約で失敗しまくる一方で、後任者のアレックス・アンソポロスが、「この年だ!」と決めたタイミングで大型トレードを敢行。結果的に2015年に、22年ぶりのポストシーズン進出を決めた。

 

そんな中で、「GMが最強の武器」を体現しているのが、NHLのナッシュビル・プレデターズだと思う。

 

もともと資金に余裕のないチームの中で「ドラフトでいい選手を指名して育てるもFAで出ていかれる」チームだったが、オーナーが変わり、ファンが少しずつ増えてくる中で、「奇跡のようなトレード」や「奇跡のような契約」で最強スクワッドを作っている。

これまでは、ドラフトでいい選手を指名しても、資金的な制約で出ていかれることが多かったが、今は「ドラフトでいい選手を指名して、奇跡のような契約でつなぎ止め」「奇跡のトレードで穴を埋める」、まさしく奇跡のようなGMなのだ。

 

すでにデービッド・ポイルはGM史上歴代最多の通算勝利数を塗り替えUSホッケーの殿堂入りが決まった

 

そこで、せっかくなので、デービッド・ポイルの歴代の「半端ない」トレードや「半端ない」契約を見てみようと思う。

 

〇 トレード

もともとワシントン・キャピタルズのGMだったポイルだが、ワシントン時代も結構大型トレードの歴史がある。

とは言いつつも、今回はプレデターズでの大型トレードのみを取り上げる。

 

1. エクスパンション・ドラフト時のトレードでチームのレジェンドを獲得 (1998)

1998年のチーム発足時のエクスパンションドラフトで、ロサンゼルス・キングスと、ゲーリー・ギャリー (Garry Galley) を指名しない代わりにキーモー・ティモネン (Kimmo Timonen) と、ヤン・ヴォパット (Jan Vopat) を獲得。

ギャリーは、1998年以降は、キングスでの2年と、NYアイランダースでの1年を合わせて、3年合計で186試合で19ゴール47アシスト66ポイント。2000-2001年シーズン終了後に引退したが、ティモネンはプレデターズの8年間で573試合で79ゴール222アシスト301ポイント。

プレデターズではオールスター2回選出、2006-2007年にはチーム3代目のキャプテンを務めたり、最優秀ディフェンスマンのNorris Trophy投票で5位に入るなど、チームのレジェンドと呼ぶにふさわしい活躍だった。

皮肉にも、2007年のファイヤーセールで放出されたスター選手の一人。あの時お金があれば…というのはいまだに思わされる。

 

 

2. チーム史上初のプレーオフに向けての大型補強 (2004)

チーム史上初のプレーオフ進出がかかった2004年のトレード・デッドラインで、シカゴ・ブラックホークスからスティーブ・サリバンを獲得。プレデターズでの最初の試合でハットトリックを決める衝撃のデビューとなった。

 

この時放出したのは、2004年・2005年のドラフト2巡目指名権だが、この時ブラックホークスが指名したのはライアン・ガーロックとマイケル・ブランデンの2人。ガーロックはNHL出場無し、ブランデンはNHL通算127試合出場。

一方のサリバンは、通算16年のNHL生活の中で、ナッシュビルが最長となる6年の在籍となり、317試合で100ゴール163アシスト263ポイント。途中ケガで全く出れないシーズンがあったり、というのもあったが、サリバンはプレデターズで5回のプレーオフ出場 (うち1回はケガで欠場したが)。十分すぎる活躍だったといえるだろう。

 

 

3. ガラスのエース・フォースバーグの獲得 (2007)

1990年代~2000年代のNHLでは、レッドウィングス・アバランチという2大勢力がいたといっても過言ではないが、そのアバランチの攻撃を、ジョー・サキックと、ピーター・フォースバーグという2人のレジェンドが支えていた。

…というのが、2000年代初頭小学生だった僕の理解。笑

そのフォースバーグが、巡り巡ってナッシュビルに来た、というニュースは、とてつもない衝撃だった。

 

…サラリーキャップ導入後、アバランチはスター選手を抱えきれなくなり、フォースバーグは、ドラフト指名を受けた元のチームであるフィラデルフィア・フライヤーズに復帰。

そのフライヤーズが2006-07年に低迷すると、プレデターズは、元ドラフト1位指名の選手2名 (スコッティー・アップシャル、ライアン・ペアレント) と2007年のドラフト1巡目・3巡目指名を手放してフォースバーグを獲得。

 

同じ地区のライバル・レッドウィングス戦では、延長戦で決勝ゴールを決めたり、というのもあった。


Peter Forsberg GWG Goal vs Red Wings Feb 24 2007.avi

 

結果的にはフォースバーグは、プレデターズの17試合で15ポイント、プレーオフ5試合で4ポイントを稼いだが、プレデターズはプレーオフ1回戦敗退。フォースバーグは、キャリアの最後は、コロラド・アバランチに復帰して終え、2014年には殿堂入りを果たしたが、「スモールマーケットのプレデターズが、レジェンドのフォースバーグを獲得した」というのは、フランチャイズにとっては、大きな意味のある補強だった。

 

 

4. オタワからキャプテンがやってきた (2011)

プレデターズが2年ぶりにプレーオフ復帰した2010年も、1回戦敗退。今度こそは…という思いで挑んだ2010-2011年のプレーオフ争いで、デービッド・ポイルはドラフト1巡目指名権と、条件付きドラフト3巡目指名権をトレードし、オタワ・セネターズから、マイク・フィッシャーを補強。

センターの選手層が比較的薄かった当時のプレデターズにとっては、大きな補強となり、プレーオフ出場6回目にして、念願の初戦突破を果たした1年ともなった。

その後フィッシャーはチームの顔となり、キャプテンも託されるなど、8シーズンナッシュビルに在籍した。プライベートでは、カントリーミュージシャンのキャリー・アンダーウッドと結婚するなど、完全にナッシュビルに根を張る、人気選手となった。


Carrie Underwood sings national anthem before Nashville Predators playoff game

余談だが、"Ms. マイク・フィッシャー"ことキャリー・アンダーウッドも、カントリー歌手だけあって、カントリーミュージックの街・ナッシュビルのチームのイベントにも顔を出している。

 

 

5. 控えゴーリーでドラフト2巡目×2 (2012)

ドラフト2巡目指名権×2。スティーブ・サリバンを獲得したのと同じ値段だ。

サリバンは、1試合15〜18分くらい任せられる、トップライン級のフォワードだったが、プレデターズは、控えゴールテンダーに対して、同じ値打ちでのトレードをふっかけた。今度はプレデターズが、タンパベイ・ライトニングに選手を放出した。

アンダース・リンドバックは、ペカ・リネーのいるプレデターズでは、守護神になれるはずもなく、放出されたのだが、「第2のリネー」と謳われた彼は、ドラフト2巡目指名権2つとのトレードになった。

リンドバックはライトニングでは2年で47試合出場にとどまり、レギュラーをつかめず。トレード放出された。

一方、プレデターズが獲得した2つの指名権は、ポンタス・オバーグと、コルトン・シソンズの指名に。オバーグはプレデターズでレギュラー定着とはいかず、トレードに出されたが、シソンズは、守備力のあるフォワードとして、今も重宝される選手だ。

 

 

6. (プレデターズ史上最も「半端ない」トレード) 2度目のフォースバーグ獲得 (2013)

2度目のフォースバーグ獲得といいつつも、今回は別人だ。

プレデターズ2回目のドラフトで下位指名を受けてから、地味なプレデターズの中でも主力選手として、毎年コンスタントに20ゴール近く、50〜60ポイントを稼いでいた、生え抜き功労者のマーティン・イーラットが、出ていきたいとチームにトレードをリクエスト。ロックアウトにより短くなった2012-13年、プレデターズは早々とプレーオフ争いから脱落してしまったことも遠因だろう。

当時のプレデターズは、決して今のような契約巧者でもなく、どちらかといえば不良債権に近かったイーラットには、トレード拒否権が付いており、トレード先も限られていた。

その中で、イーラットと、マイケル・ラッタをプレデターズが放出し、ドラフト1巡目指名のフィリップ・フォースバーグを獲得した。

イーラットは、ワシントンでは1年超在籍していたが、62試合で2ゴール25アシスト27ポイント。82試合換算しても35~40ポイントくらいのペースで、決して期待に応えたとはいえない。

その一方、フォースバーグの活躍は言うまでもない。2014-15年のブレイク以降、毎年30ゴール近く、そして60~65ポイントをコンスタントに稼ぐ、プレデターズのトップ・スコアラーになった。昨年は故障離脱がありながらも、67試合で64ポイント。プレデターズ史上2人目となる、年間80ポイントに最も近い男だと思う。それでなんとまだ24歳。

衰えの兆候のあったベテランで、これからが旬の選手を獲得。まさに「海老で鯛を釣る」トレードだったといえる。


TOP 10 || Goals by Filip Forsberg

「プリンス・フィリップ」や「Scoresberg」など、様々なことが言われているフォースバーグだが、まさに次世代のチームの顔になりうる選手だ。

 

 

7. オールスターのジェームズ・ニールがやってきた! (2014・夏)

プレデターズがプレーオフを2年連続で逃し、チーム発足からずっとHCを努めてきたバリー・トロッツが退任。このまま負け続けるとデービッド・ポイルの首も危うい、という中で、ポイルが大型補強に出たのがこのトレード。

強烈なシュートでゴールを量産する、オールスター選出のジェームス・ニールを、パトリック・ホーンクウィストと、ニック・スポーリングという2名の生え抜きとトレード。

ニールは、30ゴール到達は一度のみながら、移籍初年度はオールスターにも出場し、3年間で23ゴール→31ゴール→23ゴールと、常に相手にゴールの脅威を与え続けてきた。プレデターズ在籍での3年間、チームは毎年プレーオフ出場。この間、チーム史上初となる、スタンリーカップ決勝進出も果たした。

「恵まれ過ぎたエクスパンションドラフト」で、ヴェガス・ゴールデンナイツに引き抜かれてしまったのが今でも惜しいが… 

一方で、もとはといえば、ホーンクウィストはドラフト最下位指名。そこからプレデターズで年間30ゴール近くを計算できる選手になり、今もペンギンズで活躍しているのだから、この選手自体も、プレデターズのドラフト力・育成力の裏返しだ。

 

 

8. ブロックバスター!part 1 (2016)

イーラットのトレードがあった2013年、プレデターズは、実に2008年以来のドラフト上位10位指名権となる、全体4位の指名権をもっていた。

(余談だが、これもトレードがあったゆえで、純粋なプレデターズの指名権で…となると、2003年以来ちょうど10年ぶり、上位5位となると、なんとフランチャイズ最初のドラフト (1998年) 以来15年ぶり2度目となる事態だった。)

そのドラフト全体4位指名権で指名したのは、ディフェンスのセス・ジョーンズ。本当はフォワードの指名のほうがチームのニーズに合っていた気もするのだが、全体3位以内に収まってもおかしくない能力のジョーンズが4位まで残っていたことで、デービッド・ポイルが迷いなくいったという。

とはいえ、シェイ・ウェバーや、ロマン・ヨシなど、オールスター級の選手が並んでいるプレデターズの守備陣に、若干20歳の選手が割って入るのは至難の業だった。

結果的に、センターがほしかったプレデターズは、ブルージャケッツの当時のHCとソリが合わず成績を落としていたライアン・ジョハンセンとのトレードに。ジョハンセンもまた、全体4位指名で、トレード時は24歳。オールスター級の若手どうしが、1対1でトレードされるという、現代では珍しいトレードとなった。

その後ジョーンズはブルージャケッツで、No.1ディフェンスマンになりあがり、2017年にオールスター出場。昨シーズンはオールスターチームに選出されるなど、期待通り大スターに成長した。

一方で、ジョハンセンも、これまでの成績レビューで書いてきたように、プレデターズ不動のNo.1センターとして、今がまさに黄金期のチームの顔となっている。

 

  

9. 今は珍しいスターとスターの1-1トレード (2016・夏)

シェイ・ウェバー。

数年前のプレデターズと言えば、ペカ・リネーかシェイ・ウェバーが数少ないリーグトップクラスの選手だった。

2009年から、5回のオールスター出場。2010-11、2011-12にはオールスターチームのトップチームに、2013-14、2014-15にもオールスターチームのセカンドチームに表彰され、毎年のように最優秀ディフェンスマン (ノリス・トロフィー) 投票で名前があがるなど、キャプテンでもあったウェバーは「プレデターズの顔」そのものだった。

そのウェバーを放出するのは衝撃的でもあったが、相手が、モントリオールのスーパースター、PK・スーバンであったこともまた衝撃だった。

スーバンは結局プレデターズ移籍後も、ノリス・トロフィー投票3位に入ったり、オールスター選出があったり、変わらず大活躍。ウェバーは故障に苦しむ2年となっており、年齢も考えると、プレデターズの勝利感があるトレードになりつつある。

オールスター級のディフェンスマンが1対1でトレードされたのも、ジョハンセンのトレードのように、最近では珍しいトレードになってきているらしいが、よりプレデターズのホッケーにあっていたのは、よりスピードのあるスーバンだったかもしれない。

キャプテンにしてチームの顔だったウェバーという代償は大きかったが、ウェバーも年を重ねてきている中で、より若く、よりプレデターズのホッケーにあい、より「華のある」スーバンを獲得するというトレードを実行したことこそが、「デービッド・ポイルという忍者のようなGM」のイメージを固めた気もする。

 

 

 

10. 三角トレードでもちゃっかり (2017)

ジョハンセンがいるとはいえ、そこに続くセンターの不在が、スタンリーカップ決勝でも露呈したプレデターズ。今度こそ…という思いで、昨シーズンはセンターの補強をしようとしていた。

トレード市場にコロラド・アバランチのマット・ドゥシェーンが出される、という噂はずっと出ており、「どこに行くのか」という議論になっていたのだが、ここに、昨シーズン一杯で契約の切れるカイル・トゥリス、そしてプレデターズのプロスペクトも加えて、大型の三角トレードが行われた。

結果的にはドゥシェーンはトゥリスのいたオタワ・セネターズに、トゥリスはセネターズからプレデターズに、そしてアバランチは2チームから若手選手を受ける、という形でトレードが行われ、トゥリスはプレデターズと6年36Mという契約延長も合わせてのトレードとなった。

サミュエル・ジラード、ブラディスラブ・カメネブという期待の若手選手2人や、2018年のドラフト2巡目指名権は出費としてあったが、昨年時点でプレデターズは初の地区優勝・プレジデンツトロフィーも獲得。今年もプレーオフ出場圏内におり、スタンリーカップに近づければ、それだけでも十分価値のあるトレードだったといえるだろう。 

 

〇 契約 

これまでは、トレードを見てきたのだが、トレードだけではなく、「獲得した選手を、『えっ!?』というくらいの契約で長期保有する」忍者のようなスキルが、最近のプレデターズの強みだ。

例えば、上記でも出てきた、フォースバーグは、制限付きFA (RFA) だったときに6年36Mという契約を締結。80ポイントくらいいくポテンシャルを考えたら、RFA時は2~3年契約→制限無しFA (UFA) 時に年8M前後の大型契約 という可能性もあったのだが、結果的に6年36Mという超大型契約でまとまった。

それだけではなく、ジョハンセン・フォースバーグと、"JoFA"と呼ばれるトップラインを組むヴィクター・アービッドソンも、7年28Mというバーゲン価格での契約だ。30ゴール60ポイントが期待できる選手が、年間4Mで7年も保有できるのだから大きい。

(ブレイク翌年の契約更新だっただけに、当時はギャンブル的な要素もあったのだが…)

 

それだけではなく、守備もできる2ウェイ・フォワードのケイリー・ヤーンクロックは6年12M (年2M×6年!) だったり、ウェバーの次のスーパースターと言われ続けてきたロマン・ヨシは7年28M。ライアン・エリスはブレイク前夜だったこともあるが、5年12.5Mという超バーゲン価格での契約を結んでいた。

エリスに関しては、今年8年50Mで契約延長。年齢を考えると、こちらは若干失敗のにおいがするが、2つの契約を合わせて13年62.5Mでも年5Mいかないくらい。こう考えたら大変コストパフォーマンスの優れた契約だといえるだろう。

 

ブルージェイズのトレードや大型契約で失敗したものは?と言われると結構ありそうし、タイタンズのFA補強やドラフト指名は、上記の通り失敗も多かった。

しかし、プレデターズのトレードで失敗が…と言われると、意外と出てこないものである。

また、不良債権がチームの命取りになるサラリーキャップ時代に、ここまできれいに主力選手との契約をまとめられているのも珍しい。

 

決して資金やマーケットに恵まれてきたわけではないプレデターズがここまでやれてきているのは、まぎれもなく、GMという最強の「武器」があるからであると思う。

 

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